「病棟に響く『音』のちから」
「命を支える音と、心に寄り添う音楽」
当院に入院・入所されている患者さんの多くは高齢者であり、急性期治療のみならず、緩和ケアや終末期医療の対象となる方も少なくありません。
そうした環境の中で、患者さんの身体的ケアに加え、精神的な安定や安らぎをいかに支えるかは、私達の日々の課題です。
その一助として、私は定期的に院内でミニコンサートを実施しています。
曲目は演歌、唱歌、童謡、季節の歌など、患者さんが親しみやすく、口ずさむことのできる楽曲を中心としています。
これらの演奏の場においては、普段は表情の乏しい患者さんが柔らかな表情を見せたり、小さな声で歌に参加されたりする様子が見受けられます。
音楽が記憶や感情に働きかけ、言語機能や身体機能の低下を超えて反応を引き出す力を持つことを、現場で実感しています。
一方で、病棟では様々な音が鳴り響いています。
モニター音、ナースコール、人工呼吸器や点滴機器のアラーム音など、常にさまざまな電子音に囲まれています。
これらは医療安全の観点から重要な役割を担っており、音の違いによって状況を識別できるよう設計されています。

音楽を専門的に学んできた立場からすると、これらの音は単なる「機械音」ではなく、それぞれ固有の高さやリズムで意味のある音として認識されます。
もしこれらが単一の無機質な音であったならば、識別性は低下し、現場の機能性も損なわれるのです。
このように考えると、医療現場における音は、大きく二つの側面を持っていると言えます。
一つは生命維持・安全確保のための機能的な音であり、もう一つは人の感情や記憶に働きかける音楽です。
音楽は、直接的に生存や治療に関わるものではないかもしれません。
しかし歴史を振り返れば、戦時下や困難な状況においても音楽は生み出され、時代を超えて継承されてきています。
人がどのような状況にあっても音楽は、ただの娯楽ではなく、人が「人らしくあるための支え」なのかもしれません。
高齢であること、認知機能の低下や視覚や聴覚の低下、あるいは寝たきりの状態であることを理由に、音楽への関心が薄れていると一概に判断することはとてももったいないことです。
むしろ、人生の終盤においてこそ、音楽はそっと寄り添い、心を彩ってくれるものではないでしょうか。
ほんのひとときでも、心が弾んだり、懐かしい気持ちになったりする時間。
それはきっと、その人の人生を優しく照らす「音」になるはずです。
医療や介護の現場においては、身体的ケアの充実はもちろん不可欠ですが、それと同時に、患者さんの「その人らしさ」や生活の質を支える視点も求められます。
その中で音楽が果たす役割は、決して小さくないと思うのです。
日常的に耳にするアラーム音に対しても、その意味や役割に意識を向けることで、単なる電子音ではなく、医療を支える重要な要素として捉え直すことができます。
さらにそこに音楽という要素が加わることで、無機質になりがちな空間に、人間的な温かみがもたらされます。
今日もまた、病棟にはさまざまな音が鳴り響いています。
アラーム音も、ナースコールも、
その一つひとつに耳を傾けてみると、
日々の仕事がほんの少しだけ、豊かに感じられる気がします。
音は、命を支え、
そして心をつなぐもの。
そんなふうに思いながら、私は今日もこの仕事に従事しています。
新館西病棟 介護ヘルパーリーダー
秋元京子
家族の介護をきっかけに勤務。
ピアニストとしての顔も持つ。

