呼吸を設計するということ
一回換気量(測定の話)
自分の呼吸を「意識」したことはあるだろうか。
呼吸には、回数や吸い込む空気の量、湿度など、さまざまな要素が関わっている。
しかし私たちは、それらをほとんど意識することも、止めることも、ただ吸って吐くという動作を繰り返している。
普段の呼吸は、実は「空気を押し込んでいる」わけではない。
横隔膜が下がることで胸の中の空間が広がり、肺の中の圧力が下がる。すると外の空気が自然と流れ込んでくる。つまり人の呼吸は「空気を引き込む」仕組みで成り立っている。
数ある医療機器の中でも、人工呼吸器は特に印象に残る機器である。
呼吸をとめることができない、生きていくうえでかかせない営みだ。その呼吸そのものを支える装置であるという点で、強い印象を受ける。
人工呼吸器を装着すると、それまで感覚で行われていた呼吸が、数値として現れる。
そして、その数値をもとに人の呼吸を設計することができる。

人工呼吸器は、呼吸が弱くなったり、自分で呼吸できなくなったりする場合に、空気を肺へ送り込み、呼吸を「作る」。言い換えれば「空気を押し込む」装置である。
自然の呼吸とはまったく逆の仕組みである。
ただし、その方法は一つではない。
呼吸を量で決めるのか、
呼吸を圧力で決めるのか、
あるいはその両方を組み合わせるのか。
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例えば「量」であれば「必ずこの量を入れる」と決めて空気を送り込む。
一方「圧力」であれば「この強さで押す」と決め、その結果として入る量が変わる。
同じ“呼吸”であっても、その設計思想は大きく異なる。下の図は圧力で呼吸を制御する場合のイメージである。

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人工呼吸器も、空気を送り込み、吐き出させるという呼吸の流れそのものは同じである。
さらに、呼吸回数はどうするのか、
空気を送り込む時間は何秒がよいのか、
患者自身の呼吸とどのように合わせるのか。
こうした条件を組み合わせて、呼吸は形づくられていく。
本来であれば、呼吸回数、吸気時間、湿度、酸素濃度などについても触れたいところだが、説明がとても長くなってしまうため、今回はその中でも呼吸の量つまり、「一回換気量」に注目してみたい。
普段一回で吸っている空気の量、一回で吐いている量(一回換気量)を数値として想像したことがあるだろうか
生別、身長、体重などによって、その人の適正値は異なる。少なすぎても、多すぎてもいけない。
では、その「一回換気量」はどのようにして測られているのだろうか。
人工呼吸器では、回路の途中で空気が流れると、その通り道の前後にはわずかな圧力の差が生じる。この違いが薄い膜(メンブレン)の変形として捉えられ、電気信号へ変換されることで、空気の流れ(流量)として数値化され、さらにその流量を積分することで1回の呼吸の量(一回換気量)が求められる。
つまり、目には見えない呼吸は、このように数値として現れてくる。
そして一回換気量以外にも、呼吸回数、吸気時間、湿度、酸素濃度など様々な要素を含めて細かく調整していき、無意識に行っていた呼吸が数値として可視化される。
それは不思議で、どこか緊張感のある世界でもある。
人工呼吸器の精密さとは、単に細かい数値を扱えることではない。
わずかな違いを捉え、その状態に応じて呼吸を調整し続けることにある。
当たり前すぎて意識しない「呼吸」が、ここまで精密に扱われているということ。
それは、不思議なことではないだろうか。

筆者 小口紘平
臨床工学技士。最近はIT業務にも関わっている。好きなことはサウナで整うこと。


